医療コラム

耳鳴りについて
- 過労やストレスから起こる軽度の難聴 -

西端耳鼻咽喉科院長・北里大学医学部耳鼻咽喉科講師 医学博士
西端 慎一

 私のクリニックを受診する患者さんの中で、最近軽い耳鳴りや耳が塞がった感じを訴える患者さんが増えているように思います。その中で特に20代から30代の女性が増加しているような印象を受けます。

 風邪で鼻がつまった時に強く鼻をかんだり、飛行機に乗ったりすると耳が塞がったような感じになりますが、これは中耳(鼓膜の奥の空洞)の気圧を調整する耳管の機能が悪くなるために鼓膜が圧迫されて起こる症状で、唾を飲み込んだり大きくあくびをすると治ることがあります。

 これとは別に、何の前駆症状もなく突然耳が塞がったようになることがあります。これは片側に起こることが多いようですが両側に起こることもあります。持続時間も数分から数時間のこともありますが、1日以上、時には1週間ぐらい続くこともあります。また、この症状は繰り返し起こることがあります。

 例えば、朝起きたら片方の耳が塞がっている感じがあったが、昼頃にはいつの間にか治ってしまった。このようなことを週に数回繰り返しているが耳が塞がった感じだけで聞こえは悪くはない、という訴えで受診してくる患者さんがいます。このような患者さんを診察すると、前途した耳管の機能に異常はないのですが、聴力検査を行うと低音(125-500Hz)に軽度の難聴が見つかることがよくあります。(ただし症状が消失している時に検査をしても異常が見つからないことがあります。)また、このような症状は、仕事が忙しい、睡眠不足、ストレスがたまったなどの状況の時によく起こるようで、受診時に血圧を測定すると、血圧が低めの人が多いようです。最近このようなタイプの難聴が20代から30代の女性に多くなっているように思います。

 この難聴は中耳のさらに奥にある内耳の機能が悪くなったために起こると考えられています。内耳は、外耳から入った音による鼓膜の振動を受け取り、神経の電気的な信号に変えて脳に送る役割をもった場所で、多くの感覚細胞が並んだ複雑な構造をしています。疲労や睡眠不足などにより自律神経の調節が狂うと、内耳に行く血流が悪くなるため感覚細胞の機能が低下したり、感覚細胞の周囲を満たしている液体(内リンパと言います)の圧力が変化するために、このような難聴が起こると考えられています。

 程度が軽い場合には疲労や睡眠不足を解消することで症状が起こらなくなることもありますが、症状が続くときには薬(ビタミン剤や血液の循環を改善する薬など)を飲まないと回復しないこともあります。また同じような症状で始まる病気で早期に治療しないと難聴が回復しない病気(突発難聴など)や、めまいが起こる危険のあるメニエール病(次号で解説予定)などがありますので、症状が数日間持続したり繰り返す場合には早めに耳鼻科を受診して、聴力検査を受けることをおすすめします。

【月刊「丸の内」より出典】

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