医療コラム

メタボリックシンドロームとは

東京逓信病院 内科部長 宮崎 滋

Aさんは51歳の会社員。会社でも重要な仕事をまかされており、精力的に仕事をこなしています。学生時代はサッカー部に属し、体力には自信を持っています。40歳過ぎから徐々に体重が増加し、お腹が出てきたことを心配しています。

1.診断の結果

昨年の健康診断では体重の増加とトリグリセリド(中性脂肪)の上昇を指摘されているだけでしたが、今年の健康診断では異常値となっている項目が増えていました。

身長167cm 体重73kg BMI*26.2 血圧150/90
*BMIの計算式…73(体重)÷1.67(身長)÷1.67(身長)=26.175ノ

  • 血糖値(早朝空腹時)…120mg/dl(正常値110mg/dl以下)
  • 総コレステロール…210mg/dl(正常値220mg/dl以下)
  • トリグリセリド(中性脂肪)…215mg/dl(正常値150mg/dl以下)
  • HDL-コレステロール(善玉コレステロール)…38mg/dl(正常値40mg/dl以上)
  • 肝機能
    GOT…38(正常値11-13)
    GPT…56(正常値6-43)
    γ-GTP…128(正常値10-87)

自分自身で検査結果を調べてみるとどの値も正常値からわずかであるが外れています。
異常値であっても大きく異常ではないので、まあ大丈夫だろうと自己判断し、毎日の仕事に没頭していました。

2.健康管理医からの呼び出し

健康診断の結果が送られてきてから1ヵ月後、健康管理医から健康診断結果の説明と健康指導を行うので来室するよう通知を受けました。

健康管理医(以下、医師)「Aさん、よくいらっしゃいました。今日は健康診断の結果を説明しましょう」
Aさん「去年と比較して少しデータが悪くなっているようですが…」
医師「これからひとつずつAさんの問題点をご説明しましょう。体重はBMI(ボディマスインデックス)で判定されています。BMIとは体重(kg)を身長(m)で2回割った値で18.5~25が普通の体重です。少し肥満しています。次に血圧ですが、最高血圧(収縮期血圧)150、最低血圧(拡張期血圧)は90といずれもやや上昇しています。この値から高血圧と診断されます。次に血糖値ですが、120mg/dlという値は糖尿病ではありません。正常血糖は110mg/dl以下、126mg/dl以上になると糖尿病と診断されるので、境界型と判定されます。コレステロールの値は正常値ですが、トリグリセリドは215mg/dlと上昇しています。正常値は150mg/dlですから、この値はかなり高いと思います。善玉コレステロールと言われるHDLコレステロール値も正常より低く問題です。最後に肝機能ですが、GOT、GPTがやや高く、特にγ-GTPが高いのが重要で、おそらく脂肪肝だと思われます」
Aさん「確かにどれも値が高いですね。でも大したことはないじゃないですか。私の友人で私ほど太ってはいませんが、糖尿病と言われています。先日会ったら血糖が135に下がったと言って喜んでいましたよ。私の血糖は120ですから大したことはないと思いますが」
医師「その方はやせている方ですね。トリグリセリドや血圧はどうですか?」
Aさん「詳しくは知りませんが、血圧は高いと言っていましたが、糖尿病以外は問題ないと言っていました」
医師「そこが大きな違いです。お友達はやせていて糖尿病があり血圧が高いのに対し、Aさんは少し太っていて、少し血圧が高く、少しトリグリセリドが高く、少し血糖が高いのです。この『少し』がいくつもあるのが問題です」
Aさん「そうですか。私はどれもちょっと悪いだけなので大したことはないと思っていたんですが」

3.メタボリックシンドローム

医師「Aさんのデータは最近注目されているメタボリックシンドロームに当てはまります」
Aさん「メタボリックシンドローム?それはどんな病気ですか?」
医師「メタボリックシンドロームは、肥満、高血圧、高トリグリセリド血症、高血圧の4つの疾患が集まったもので、動脈硬化が進みやすく心筋梗塞や狭心症などの心臓病を起こりやすいのです。この図を見てください。肥満、高血糖、高トリグリセリド血症、高血圧の4つの疾患がまったくない人に心筋梗塞が起こる危険率を1とします。この疾患が1つ、2つ、3つ、4つと増えた時の危険率を調べてみると、1つの時が5.1倍、2つの場合が5.8倍、3つ以上になると35.8倍になります」

Aさん「では私の場合はこの4つが全て揃っているわけですね。そうだとすると大変だ」
医師「今日来ていただいた理由がおわかりいただけたようですね。これまでは先ほどのご友人のように血糖が高ければ糖尿病として、血圧が高ければ高血圧として指導管理していました。糖尿病、高血圧、高コレステロール血症などはその病気だけで心筋梗塞や脳卒中などを起こしやすい疾患です。ところが体重、血糖、血圧、トリグリセリドが少し高いだけでもまとめて起こると先ほど示した図のように心筋梗塞を起こしやすいことが判ってきたのです」
Aさん「でも不思議ですね。どうして私には病気が軽症とは言えいっぺんに4つも起こってしまったのですか?なにか原因があるのですか?」

4.内臓脂肪が原因

医師「いいところに気がつきましたね。現在メタボリックシンドロームの原因はお腹の脂肪(内臓脂肪)だと考えられています」
Aさん「そう言えば最近ウエストが大きくなりズボンがきゅうくつになってきました」
医師「腹囲を測ってみましょう。立ってください。おへそのところでメジャーを巻き腹囲を測ります。えーっと90cmですね。腹囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上であれば内臓脂肪が蓄積していると判定されます」
Aさん「お腹にただ脂肪がたまっているだけではないのですか?」
医師「これまでは脂肪を蓄えている脂肪細胞は倉庫のようにエネルギーを貯蔵する働きしかないと考えられていました。ところが最近では、脂肪細胞は単に脂肪を蓄えるだけではなく、血糖、血圧、トリグリセリドを上昇させる物質を造り出していることが判ってきました。特にお腹の中の脂肪、内臓脂肪と言いますが、その働きが強いことが判ってきました。その他にも血管に直接動脈硬化を起こす物質も造っています。内臓脂肪の増加が、血糖、血圧、トリグリセリドを上昇させ、心筋梗塞を起こしやすくする原因なのです」
Aさん「単なる中年太りと思っていましたが、甘く考えると大変ですね。どうすればよいのでしょうか」

5.対策は生活改善が第一

医師「内臓脂肪の増加が原因ですから、減らすことが第一です。ただ内臓脂肪だけ減らす方法は今のところありません。しかし体重を減らす際、内臓脂肪は皮下脂肪より減りやすいことが知られています」
Aさん「どんな点に注意すればよいのでしょうか」
医師「まず体重を減らしましょう。どのくらい減量すればよいかと言うと、今の体重の5%、約3.5kgを3~6kgで減らすのが適当です。1ヶ月で0.5~1kg減らす程度なのでそう難しくはないと思います。Aさんの場合1日のエネルギー消費量*は1800kカロリーぐらいですから、食べる量を1500kカロリーとすれば達成できると思います。食事としては、油脂、砂糖の多い食品を食べないこと、緑黄色野菜を多くとること。散歩を主とした運動を1回30分以上、週3回以上行うこと。飲酒、喫煙を控えることなどです」
Aさん「なるほどわかりました。心筋梗塞など起こしたら大変なので、早速体重を減らしお腹をへこませるよう努力してみます。先生がおっしゃるぐらいの減量ならできないこともないと思いますので」
医師「今日来ていただいた甲斐がありました。3ヵ月後に体重を減らしてまたここに来てください。おそらく血糖、血圧、トリグリセリド、肝機能のデータがよくなるか、正常化しているものもあると思います」

*エネルギー消費量…体格により差がありますが、男性1600~2000kカロリー、女性1400~1800kカロリーぐらいと考えればよい。

6.そして3ヵ月後

こうしてAさんは食事、運動について注意し、なかなか忙しく運動もできず、付き合いも多く苦労しましたが、3ヶ月で体重を71kgにすることができました。ウエストも86cmと4cmも縮まりました。検査を受けたところ、血圧145/85、血糖値が108mg/dl、トリグリセリド176mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl、GOT32、GPT36、γ-GTP112と改善しました。健康管理医も後2kg減量すれば全部正常値になるかもしれませんと言ってくれました。体重を減らし、健康に近づくよう心がけています。Aさんは毎日少しずつ食事、運動の面で生活改善のための努力を続けています。 

千代田区税務保険年金課
「みんなの健康」より

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