医療コラム

進歩した不妊症の治療

杉村レディースクリニック

■あかちゃんがほしい!

 幸せな結婚生活を送り、健康な赤ちゃんがほしいという願いは、人間だれしもが持つものだと思います。普通、 結婚すればすぐ赤ちゃんに恵まれるであろうと思いがちですが、これがなかなかそうでもないのです。調査の方法等によっては数字が異なりますが、現在結婚されているカップルの10組に1組が不妊症であるといわれてい ます。

 昔は、「嫁して3年子なきは去る」と不妊症の責任が女性にあるような間違った考え方が多かった様ですが、 実際には

1.男性に原因がある場合
2.女性に原因がある場合
3.男性、女性両方に原因がある場合
4.両方に特別な原因が見られないのに、なかなか妊娠しない場合

の4つのケースがあるのです。

 今回は不妊症についてなるべく分かりやすくまとめてみました。

■不妊症とは

 日本の産婦人科の学会では、結婚して2年間(避妊している間は除きます)妊娠されない場合を不妊症と呼んでいます。しかし、実際には約1年間妊娠しない場合は、不妊症専門の医師とご相談された方が良いと思います。

■不妊症の原因

1.男性の原因
男性に不妊症の原因がある場合は、精子の数が少ない(正常は、1mlあたり5000万以上)、動いている精子が少ない(70%以上の精子が動いているものが正常)というケースが大部分ですが、中には数、動きともに 良くても受精能力が弱いケースもあります。

2.女性の原因
女性の原因では、卵を運ぶ働きをする卵管がつまっていたり、卵管の端が子宮等に癒着して通りが悪いというケースが一番多く見られます。また、妊娠のために必要な卵がうまくできないという排卵障害も多く見られます。

3.精子が少なく、女性の卵管も通りが悪いというケースもあります。

4.女性、男性ともに検査で正常という例の中には、精子と頸管粘液(排卵の時に子宮の入り口に分泌され、精 子が子宮の中へ入って行くための液)の相性が悪く、精子が上っていく間に動きが悪くなるケースが多いようで す。これはフーナーテスト(性交後検査)という検査でわかります。

 また、両方とも異常がない場合を機能性不妊とよびますが、この中にはもう少し様子を見れば自然に妊娠するケースと、実際には異常があるにもかかわらず、現在普通に行われている不妊症の検査では発見できない異常が ある場合(卵管が通っていても卵を受け取ることができないという卵のピックアップ障害等)もあります。

■不妊症の検査

1.基礎体温
これは女性が、毎朝起きた時の体温を計るもので、排卵の有無を見ます。体温が高い部分と低い部分に分かれ た場合、排卵していると判断しますが、実際に超音波で排卵の様子を見ると、体温が上がり、体温表からは排卵 していると思われる場合でも、卵胞(卵のはいっている場所)が破れない場合もあります。また、基礎体温の計 り方の説明の部分によく、「体温が最も下がった日が排卵日」と書いてありますが、これは間違いです。たしかにそうなる方もいますが、下がらないで排卵するほうが多いのです。低温の最終日が、排卵日の確率が最も高いといわれています。
つまり、排卵日は高温が続いて初めてわかるのです。

2.精液検査
両(約3ml前後)、濃度、運動率を見ます。

3.卵管通気検査
卵管が通過しているかどうかを見ますが、実際に卵管が働いているか、つまり、卵を受け取って子宮へ送っているかどうかは検査できません。

4.子宮卵管造影
子宮の形と、卵管の通過性、癒着の有無がわかります。

5.フーナーテスト
排卵日に性交渉を持ち、2時間以内に子宮の中の液体をとって、精子がどのくらいいるかを見る検査です。

6.その他
子宮内膜検査、ホルモン検査などがあります。

■不妊症の治療

1.タイミング指導
超音波で排卵のタイミングを見て、排卵日にチャンスを待つもの。これは、検査で特別な異常がなく不妊期間があまり長くない場合に行います。

2.人工授精法
精子の数が少ないもの、運動率が低い場合、フーナーテストで子宮の中に精子があまり入ってないもの、検査で 異常は見られないが、不妊期間が長いケースに行います。精子を排卵日に子宮の中へ注入するもので、この中には、 精液そのものを子宮の中へ入れるAIHと、動きの良い精子を集めて入れる洗浄濃縮法を使った洗浄AIHの2つがあります。

3.卵管の治療
卵管の通りが悪い場合、治療のために通気(卵管に二酸化炭素を流す)や通水(卵管へ生理食塩液を流す)を行う場合もあります。また、腹腔鏡という内視鏡で、卵管を観察し癒着等が見つかった場合は、開腹手術を行うケー スもあります。

4.排卵誘発
排卵がおこりにくい場合に排卵を促す治療をします。割合軽いケースは内服薬(クロミッド、セキソビッド等) で治療しますが、内服薬で排卵が起こらない場合は、HMGという注射による治療が必要になります。この場合で は、妊娠した時、双子や三つ子等の多胎妊娠の確率が普通の妊娠より高くなります。また、卵巣が腫れる場合があ りますので注意が必要です。

■新しい不妊治療

 現在では、いま述べた治療法以外の新しい不妊症の治療が行われています。

1.GIFT法
これは、腹腔鏡という内視鏡をおへその部分から入れて、卵巣から卵を吸引して、精子と一緒に卵管の中へ入れ る方法です。これは精子の少ない場合、人口授精法を10回~20回という多くの回数行っても妊娠しない場合、 卵のピックアップ障害等の場合に行われます。しかし、約5日間入院が必要で全身麻痺をかけなければできず、また手術時間が1時間~2時間と長時間かかるため、現在ではあまり多く行われていない様です。

2.体外受精・胚移植法(IVF・ET)
これは、女性の卵管に異常がある場合、精子が少ない場合、人口授精法を数多く行っても妊娠しない場合、機能 性不妊、卵のピックアップ障害の時等に行われる方法です。この場合は、おなかを切らずに膣壁から超で、卵管を観察し癒着等が見つかった場合は、開腹手術を行うケー スもあります。音波を見ながら卵をとり、精子と受精させ2日後に子宮の中へ入れる方法です。この方法では、入院せずに通院のみで治療が可能で、手術時間も10分~30分と短時間ですみます。また、妊娠する確率は、受精卵ができた場合約30%です。これは、AIH等の人口授精法よりはるかに高い数字です。しかし、この方法は、まだ保険の適用になっていないため自費の診療になります。その施設によってややちがいますが、50万円~60万円かかる場合が多い様です。また、中には排卵誘発剤を使わず、ホルモン検査等もせずに値段を下げている施設もあります。排卵誘発剤を使用しない場合は、目的の卵が1個ですので、手術をしても卵が取れずに何もできないという場合もあります。また、最近ではお産の数が少なくなったため、不妊症を専門としていないところで、急に体外受精を始めるケースもあるようです。通院される場所を決める場合は、よく評判等を聞いて慎重に決めることが大切です。

 ご夫婦によっては、妊娠ということに関してなるべく自然にというご希望で、なかなか治療に踏み切らないご夫 婦もありますが、科学の進歩した現在に生まれたわけですから、進歩した医学を利用することが自然な姿ではないかと思います。

 婦人科というのは、どちらかというとかかりずらい科ではあると思いますが、1年間妊娠しない場合は、どうぞ勇気を持って受診して下さい。

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